7月。
ブラチスラバから電車で東に約2時間の距離にある、トポルチャニー(Topoľčany)という小さな町で行った滞在制作・アーティストインレジデンシーのため2週間家を空けた。
茹だるような暑さの中、どうにかブラチスラバのおうちに辿り着き、
玄関にドサドサっと荷物を置き、ウヘー疲れた。とソファーでのびていたら、
バルコニーの方から、「ねえ、ちょっと来て。なんか、おかしい・・・」と怖気付いたクリスの声。
こちらを振り向きもしない。
バルコニーの全景はドアの位置からは死角になっていて見えない。
クリスがビビって動かずにいる、バルコニーのドアのすぐ外側には、ボッロボロの黒縁眼鏡が無造作に転がっていた。眼鏡のガラスはひび割れ、つるも一本勢い良く反対方向にネジ折れている全く見覚えのない黒縁眼。
あ、これ絶対流血系の怖いやつや。と思いました。膨らむ妄想。
意を決して、そのメガネの向こうに存在する物体と対面すべく、へっぴり腰で恐る恐るバルコニーへ出てみる
ドゥヴェ ヴァイーチカ
(↑ 今日学んだスロバキア語。卵2個)
バルコニーの端には小さな卵がちょこんと2つ置かれていた。
あったのは可愛いい卵だったのだが、もう心は叫ぶ準備をしていたので、反射的に叫んでしまった。
ギャーーーーーーーー!
絶叫マシーンのようなもので、一度心が叫ぶ準備をすると、案外なんともなくて拍子抜けしても、溜めたものは一応スッキリ出しとかなきゃと叫んでしまう。反射的反応。
果たしてこの白い双子は何の卵なのか、ググる。
ふとスクリーンから目を上げあたりを見渡すと、この建物内のご近所さんのベランダには、鳩よけのアミアミネットをつけているお家、鳩よけのカラスの置物を置いているお家がわんさか、そして極め付けには、建物一面ぐるっと鳩がいて、ほーほー鳴いていた。
「うん、鳩やね。」
まだこのアパートに引っ越してきて初めての夏だったから、この建物に鳩がこんなに住んでいることを私たちは知らなかった。
正直人生において鳩には、興味を持った事がなかったので、内心、なーんだ鳩か。と思った。
その2ヶ月後には、鳩グッズを見つけるとほくほく買ってしまうぐらい鳩を愛する人間に変身するとはこの時は思ってもいなかった。
「なーんだ鳩か」ではあるが、何にしても無事巣立って欲しいので、私たちはこの時からバルコニーに出るのをキッパリやめて、代わりに家の中からGoproを駆使して自然界を観察させてもらうことにした。
それにしても、なんてミニマリスティックな都市型の鳩だろう。
普通はさ、木の枝とかをちまちま集めて、せっせと手作りの巣を用意して、そこに産むよね。
丸裸、野ざらし、天敵からも丸見えでっせ、この卵。
しかもプラスチックの人工芝の上に直置き。
よく言えば、無駄の無い、省エネ・コスパ最高・ミニマリストの極み、モダンな鳩ね。さすが都会の鳩は違いますわ。
そんなモダン親鳩の顔を拝んでやろうと、GoProをセットして隠れてみた。
きた!
やっぱり鳩だった。
愛する子供たちの元へ一目散
!?
え?!隣? 隣に座るの?上に座って温めないの?
まあ、こっちの方がフォトジェニックではあるけどさ。
本当にこれでいいのか?
こうやって親鳥は、1時間ほど 愛する卵の隣に無表情で座った後、
ようやく間違いに気づいたのか立ち上がり、ポジション修正
一個!一個だけ?
う〜〜〜ん、ヤキモキする〜。
この後もまた、結構長い間ボーーーーーーーーーーーーーと我が子1匹だけを温めた後、
しばらくして、ようやく2個(匹)両方の上に座り直してくれました。
やれやれ。。。
あるべき形に落ち着き、安堵とともにサティスファクションを感じます、外野の私。
もうやだ、おっちょこちょいな鳩さんね。とこの時は思っていたのですが、
しかしこれは、鳩・ネグレクト親物語の序章だったのでございます。
さて、あのバキバキ黒縁メガネですが、来訪者はこの鳩家族だけのようなので、鳩親が一度は巣を作ろうと試みてみた証なんだと、思う。
愛する我が雛の為の巣を割れガラスを素材に作る。とてもエキセントリックな思考。
くるっぽー
鳩日記 つづく